幻影のステーション~キングズリー・エイミス①

 「幻影のステーション」は、SF評論の古典として名高い『地獄の新地図』の著者でありますキングズリー・エイミスの非常に理知的な作品であります。

 遥かなる宇宙空間に浮かぶ宇宙ステーション。
 ここに半永久的に閉じ込められるようにして暮らしている男女2組のペア。

 最近,奇妙な出来事が発生し,彼らを悩ませます。
 濃い褐色の物体に分厚く蔽われてしまう…,ステーションと同程度の金属物体がまっしぐらに接近…,爬虫類に似た生物が多数取り付く…,等々。

 いったい,この幻影は何を意味するのか,果たして幻影なのでしょうか。

 ブルーノーという,やや粘着質の男が,幻影についての論議を持ち出しますが,解決のつかない理詰めの分析は,かえって乗組員,特にミリという女性の心に不安をもたらします。

 そんな中,基地からの指令が発せられますが,内容は極めて冷酷なもの。
 このステーションは放棄され,乗組員の回収はないとのこと。
 そして,「幻影」が発生しているのは,このステーションだけであると。

 
 ちょっと,「惑星ソラリス」と似ていますよね。
 でも,この幻影は,乗組員の心象を読み取って発現したものではありません。

 物語は,意外な展開となります。
 実は,ここは,宇宙空間でもなんでもなく,秘密の人体実験場だったのです。

 孤独な宇宙空間を漂う4人の危うい心理ゲームの小説かと思いきや,えらくリアルで酷い現実へとシフトさせていく手際は冴えたものです。

 似た設定でも,バラードの作品では,内部の閉ざされた世界から,すべてを承知しているようなシニカルな視点を感じさせるのですが,エイミスの作品では,そんな余裕などありません。実験の悲惨な末路がストレートに描かれています。
 
 意味不明?な心理実験…実に非人間的な仕打ちでありますが,実験者側は,そういう感情は持ち合わせていないのでありましょう。

 即物的な実験報告には,不気味なユーモアさえ漂っています。

 先ほど,理知的といいましたが,反面,構成が整然としすぎていて,“優等生”的な作品だといえるかもしれません。

 「SFマガジン」1982年1月号掲載。