核兵器,生物兵器,化学兵器の相互攻撃によって,北半球が滅び去った世界。
かろうじて生き残った南半球の国家のひとつであるスーダメリカ帝国は,占星術師が枢要な職を占める,まるで中世のような国家体制を呈していました。
南方にあるという「夢の国」を探査するため,デルガド船長,人類科学者のオーストラリア人リベラ博士たちは,船で南極に向かう途中,奇妙な居留地を発見します。
あざらしの皮をまとった未開民族のような連中ですが,エスキモーではありません。むしろ,銛なぞは,エスキモーより格段に幼稚なつくりです。
彼らは,<大戦>前の船らしきものの残骸を守り,近づこうとするリベラたちを,石槍でもって威嚇するのでありますが…。
ヴァーナー・ヴィンジの40年以上前の作品で,ウォルハイム編のワールズベスト(1966年)「忘却の惑星」(ハヤカワ文庫SF)に収録されています。
巻末の解説では,「最近は奥さんのジョーン・ヴィンジの方が活躍が目立っている」とありますが,ヴァーナーさんも結構息長く第一線にとどまっております(ちなみに奥さんとは離婚したようです)。
さて,この居留地で細々と暮らす集団は,どうも,北半球の災厄後,アフリカにおける覇権闘争に敗れた南アフリカの白人支配者層の末裔だということが判明してきます。なかなか痛烈な設定であります。
この探査を聞きつけたか,ズールンド(アフリカ)の代表がリベラを訪れます。
居留地の人びとの助命,保護を要請しようとするリベラに対して,代表が冷笑しながら言い放つ言葉がこれまた痛烈。
「先祖代々願いつづけた人種分離を,いまこそ彼らはかちえておるのです。彼らをそのなかで朽ちるがままにしておいてやろうじゃありませんか」
白人優越論者にとってはもちろん不愉快な話でしょうし,被支配者側に立つ人たちにとっても,積もった憎悪から陰険な意趣返しをするアフリカ代表の姿には釈然としないところがあるでしょう。
その意味では,どちらからも支持を得にくい作品かなあ。
迎合していない分,それだけの迫力もあると思います。
人種問題の根深さをえぐる異色作品です。
