日付:1987年6月5日
宛先:USSR火星基地司令官
発信:USSR冥王星探検隊隊長
コード:TSペリシュカ C
用件:気の狂ったアメリカ人飛行士に関して
冥王星に向かうソ連の飛行艇に,奇妙な小物体が接近してきます。
それは,円筒形のコンテナーに馬乗りになり,“マザー・グース”のフレーズを繰り返し歌いながら,矢を放ちつつ向かってくる,アメリカ人宇宙飛行士でした。
なんでも,冥王星付近で,輻射エネルギーに反応して集まってくる不思議な黒い物体に,噴射口から,アンテナから,すべて塞がれてしまって,身動きとれず,ソ連の飛行艇に救助を求めるため,物体に取り囲まれないような推進方法を考え出して,やってきたとのこと。
マザー・グースを暗唱していたのは,一連の操作を間違いなく行うための,記憶術!としてだというのです。
知る人ぞ知る,怪作の一つ。
大弓で矢を射る反作用で推進するという仕組みもさることながら,フクザツ極まる軌道計算を,マザー・グースの暗唱でことすますという,いい加減さがたまりません。
正体不明の黒い物体も,なにやら意思をもっていそうな,怪しげな書かれ方だし。
そして,物語は,実にけったいな終わり方をします。
アメリカ人が,“マザー・グース”ならば,ソ連人ならば,こうなるのかな。
それにしても,どう解釈すればよいのでしょう。
この馬鹿馬鹿しい推進方法が,はやりとなったのか,ソ連の飛行艇も黒い物体にやられてしまったのか…
あまりに珍妙なため,何か深い寓意があるのではないかと,変に勘繰ってしまうような作品です。
ちなみに、宇宙空間を単身渡ってくるといえば、眼をむくような強烈なインパクトのあった「魁!男塾」の江田島平八塾長の宇宙遊泳でしょう。マキャップ描く、このアメリカ人飛行士の姿に、塾長の雄姿が被って見えました。
ハヤカワ文庫SF「時のはざま」収録。
