フロリダ州セント・ピーターズバーグにあるウイリアムス公園の木陰のベンチには,連日,決まったメンバーの老人たちが寄り集まって,日がな一日を過ごしていた。
彼らは,観光客が,当地にある“大脱出観光㈱”に入り,午後遅くに戻ってくるのを苛立たしげに観察していたのであります。
高い料金を払って,到着する場所では,みんな「若く」なっているという噂だが,それなら,なぜ,ここに戻ってくるのだ?
そんな金のない老人たちは,一大計略を案じて,建物へと乱入し,首尾よく目的地へと到達するのでありますが…。
毛色の変わった話の多いキット・リードさんの,不思議と胸に迫る作品であります。
前半,こんなはずではなかったという,シケた生涯の黄昏時を迎え,大枚はたいて,ツアーに出かける人々を見つめる老人たちの屈折した思いが,やや苦いユーモアでもって描かれます。
後半,女たらしのイギーをとっかかりとした作戦―老人たちが,生き生きと活躍する場面は最高です。すぐ,へとへとになるのが,ご愛嬌。
彼らは,見事,目的地へと着きますが,そこは,ジャングルジムのある遊び場。みんな,子どもになっています。
我を忘れて遊び回る子どもたち。でも,だんだん,夕暮れが迫ると,遊びつかれて,お腹もすいてきます。早くおうちへ帰ろうよ…。
老境というものの切なさ,だけれども,子どもの時代に戻れたにもかかわらず,そこにはとどまろうとはしない彼ら。
遊び場だけが存在し,周囲の環境が見えない,果たして,すべて子ども時代に戻っているのかどうかわからないという設定が巧みなんだと思います。
そんな中,ダンとテーダ夫妻は,この世界へ残ることを決意します。年をとってすっかり体が弱ってしまっているダン。ダンは,元の世界へ戻ることを拒否します。テーダに大変な面倒をかけることを拒否しているのでしょうか。
テーダも,そんなダンとともにとどまります。ここらへん,「介護」の問題にもつながりますね。色々,考えさせられるところです。
トーンとしては,ユーモア系なのですが,独特の苦さが効いています。
創元SF文庫「究極のSF」に収録。安田 均氏訳。
