大いなる飢え~ウォルター・M・ミラー・ジュニア①

 わたしは盲目だが,星々への道を知っている。虚空はわたしの竪琴,鋼鉄の指でそっとそれをかき鳴らす。虚空は歌う。

 美しい散文詩のような出だしで始まるこの物語は,人類の飽くなき未知の星々への渇望を,彼らが作り出す宇宙船を擬人化して,彼に語らせる異色の作品であります。

 地球を抜け出し,新世界を求めて宇宙へと旅立つ人々。

 やがて,惑星へと降り立ち,技術を失い,石器を磨きながら,厳しい生存競争を勝ち抜き,いつか,宇宙へと再び飛び立てる日がやってくる。

 安住を求めて,その惑星にとどまる人々を残して。

 わたしは見た―飢えた者の脱出と留まることを選んだ者を包む平和を。飢えた者は虚空の空虚を飲み,飢えをより大きくした。穏やかな者は大地から食を得,平和を見つけるが,どことなく―死にかけていた

 この一文が,この作品のコンセプトだと思います。

 がさつでたくましい“星狂い”の人々。理不尽なまでの衝動に突き動かされる人々。

 あてなく,決して満たされることのないままに,楽園の星を探し続ける姿に,善悪を超越した,人間存在の根本をとらえているのでありましょう。

 時は過ぎ,銀河をくまなく探索した飢えた人々は,すでに未知なる世界が消え,その渇望の焔も薄れかけてきた。

 それでも,なお,空を見上げる人々は存在していたのである。

 訳は米村秀雄氏であるが,硬質で毅然とした文章であり,独特の感覚表現が,明確にわからないところもありますが,おそらく原文の雰囲気を忠実に表しているのではないかと思います。
 
 個人的な感想としては,エントロピーの増大のイメージをもちました。
 それでもなお,エネルギーを有する人々がいることをたたえ,彼らの顔に誇りを見たのではないかと思います。

 ところで、私は,星に留まるタイプですが、 あなたはどうでしょうか。

 「SFマガジン」1999年2月号掲載。