終わりなき午後~ブライアン・オールディス①

 遥かな未来,月の引力により,自転が止まった地球は,植物の支配する世界となっていた。

 陸地は,結合し巨大化したベンガル・ボダイジュが覆いつくし,奇怪な数限りない寄生植物,捕食植物が,跳梁する。

 樹上には,さらに驚くべき世界が広がる。

 ツナワタリという,全長1マイルにも及ぶ巨大な植物体が,くもの巣のように,ケーブルを張り巡らして,移動しているのだ。

 このケーブルは,月まで伸びており,長い年月のうちに,月に大気をまとわせ,ついには独自の植生の世界を作り出していたのである。


 
一方,植物の興隆の前に,動物は,衰退をたどっていた。

 残るは,ヒトとアリとハチ。

 最後の哺乳類となったヒトは,小グループごとに集団生活をし,何とか生き残ってはいるが,すでに,テクノロジーを失っており,知的能力も低下し,襲い来る捕食植物におびえて暮らす存在と化していたのである。

 彼らが,命を落とすことは,日常にありうる。
 それも,やむを得ないことと,彼らは受け止める。

 「なるように,なったのよ。」

 彼らは,ある時期がきたと自覚すると,伝承としての定めに従って,樹上にあがり,ツナワタリとともに,月を目指す。

 旅の途中で生まれ変わった彼らは,月に住むヒトと出会うのだが…

 この植物の充満した世界。
 無機的な宇宙空間に侵食し,月までも支配下に治めた植物たち。

 その悠久で確実な営みには,不思議な静寂さも漂う。

 J.G.バラードの「結晶世界」における結晶化する密林の無機的な美しさも素晴らしいが,この作品の,汁気たっぷりの有機的世界のなんと圧倒的なことか。

 イマジネーションの奔放さにおいて,真っ先に,名の挙がる作品といってもよいでしょう。

 原題は,「Hot House」。
 1962年度ヒューゴー賞短編部門受賞作。

 長編版は,「地球の長い午後」という邦題

 旧版のカバーの方が印象深いですね。

 それにしても、「地球の長い午後」って,いい題名だなあ。
 この作品の異世界を堪能できるのも,相当部分,伊藤典夫氏の名訳に負うところが多いと思う。感謝。

 長編版では,アミガサタケやポンポンなどが出てくるが,主人公よりも,この異様な植物たちの方が印象に残るんですよね。

 オールディスの作品も数多いが,実験的なものからオーソドックスなものまで,ヴァラエティに富んでいる・・・らしいが,長編は、「グレイベアド(子供の消えた惑星)」(創元SF文庫)以外は,入手困難なものばかりなので,読めておりません。(2015年に、竹書房文庫から「寄港地のない船~Non-Stop」が刊行されました。)


 短編でも,心理小説のような「不可視配給株式会社」や,「讃美歌百番」のようなファンタジー系のもの,「爆発星雲の伝説」のようなお茶らけもの,「リトルボーイ再び」みたいなタブーブレーキングもの,「見せかけの生命」のようなストレートSFなどなど,多種多様です。
 守備範囲の広いマルチな才人なのでしょう。

 映画「スーパー・トイズ」の原作者として,有名になったかもしれません。