遥かな未来,月の引力により,自転が止まった地球は,植物の支配する世界となっていた。
陸地は,結合し巨大化したベンガル・ボダイジュが覆いつくし,奇怪な数限りない寄生植物,捕食植物が,跳梁する。
樹上には,さらに驚くべき世界が広がる。
ツナワタリという,全長1マイルにも及ぶ巨大な植物体が,くもの巣のように,ケーブルを張り巡らして,移動しているのだ。
このケーブルは,月まで伸びており,長い年月のうちに,月に大気をまとわせ,ついには独自の植生の世界を作り出していたのである。
一方,植物の興隆の前に,動物は,衰退をたどっていた。
残るは,ヒトとアリとハチ。
最後の哺乳類となったヒトは,小グループごとに集団生活をし,何とか生き残ってはいるが,すでに,テクノロジーを失っており,知的能力も低下し,襲い来る捕食植物におびえて暮らす存在と化していたのである。
彼らが,命を落とすことは,日常にありうる。
それも,やむを得ないことと,彼らは受け止める。
「なるように,なったのよ。」
彼らは,ある時期がきたと自覚すると,伝承としての定めに従って,樹上にあがり,ツナワタリとともに,月を目指す。
旅の途中で生まれ変わった彼らは,月に住むヒトと出会うのだが…
この植物の充満した世界。
無機的な宇宙空間に侵食し,月までも支配下に治めた植物たち。
その悠久で確実な営みには,不思議な静寂さも漂う。
J.G.バラードの「結晶世界」における結晶化する密林の無機的な美しさも素晴らしいが,この作品の,汁気たっぷりの有機的世界のなんと圧倒的なことか。
イマジネーションの奔放さにおいて,真っ先に,名の挙がる作品といってもよいでしょう。
原題は,「Hot House」。
1962年度ヒューゴー賞短編部門受賞作。
長編版は,「地球の長い午後」という邦題
旧版のカバーの方が印象深いですね。
それにしても、「地球の長い午後」って,いい題名だなあ。
この作品の異世界を堪能できるのも,相当部分,伊藤典夫氏の名訳に負うところが多いと思う。感謝。
長編版では,アミガサタケやポンポンなどが出てくるが,主人公よりも,この異様な植物たちの方が印象に残るんですよね。
オールディスの作品も数多いが,実験的なものからオーソドックスなものまで,ヴァラエティに富んでいる・・・らしいが,長編は、「グレイベアド(子供の消えた惑星)」(創元SF文庫)以外は,入手困難なものばかりなので,読めておりません。(2015年に、竹書房文庫から「寄港地のない船~Non-Stop」が刊行されました。)
短編でも,心理小説のような「不可視配給株式会社」や,「讃美歌百番」のようなファンタジー系のもの,「爆発星雲の伝説」のようなお茶らけもの,「リトルボーイ再び」みたいなタブーブレーキングもの,「見せかけの生命」のようなストレートSFなどなど,多種多様です。
守備範囲の広いマルチな才人なのでしょう。
映画「スーパー・トイズ」の原作者として,有名になったかもしれません。

