本作は,ハヤカワ文庫「NV」の短編集のタイトル・ナンバーであります。
とある駅の改札に,いつものように回数券を求めにきた乗客。
行き先は「メイコン・ハイツ」?…そんな駅は,聞いたこともありません。
それを聞いて、とまどい、とたんに消えうせた乗客。
驚いた駅員は、上司のペインにすぐ報告。そして、しばらくすると、また、同じ乗客が現れ、駅員と助役のペインが、沿線上に存在しないことを示すと、再び、この乗客は消えてしまいます。
助役のペインは,現地を訪れてみて,「メイコン・ハイツ」が実体化し始めているのを確認します。
7年前,州議会において,わずか一票差で,「メイコン・ハイツ」の開発が否決されていたのですが,どうも,その時点の過去が固まりきれていなかったようなのです。
ディックお得意のパターンで,もう一つの有り得べき現実が、今の現実を侵食し始める様子が,幻想的なタッチで描かれた作品です。
改札に現れた男が,今の「現実」を強く語られたとたん,消えうせてしまうという,ぐっと引き付ける出だしはもちろん,「メイコン・ハイツ」が霧のように現れ,列車が停車し,駅に降りたペインが町を歩くと、どんどんリアルになっていく様子,そして,その町が実体化するにつれ,今の現実が侵されていき,どれが現実だったのか,それもわからなくなる展開は,スリリングで、思わず引き込まれます。
置き換えられつつある「現実」は、過去にも影響を及ぼし、ペインは、過去の記憶との「違和感」を抱きつつも、だんだんと「同化」されていくところは、「現実」の認識の曖昧さと不安を掻き立てます。
おなじみの現実崩壊の「ディック節」ではありますが,ストーリーの錯綜・破綻がないのが,ディックらしからずというところか。初期作品らしいストレートさが心地よいともいえます。
現実と幻想の合間を走るかのような郊外電車。
「千と千尋の神隠し」の列車のシーンと雰囲気が似ているなあと思いました。
日も暮れ、街明かりが遠くに見える中を進む郊外電車で,この物語を読みながら,ふと気づくと,電灯に照らされた誰もいないプラットフォームに停車している…
相客もなく,見知らぬ駅名…なんて,異世界に迷い込み、戻れなくなってしまうような怖さも感じます。
「SFマガジン」2014年10月号は、特集記事は、「PKD総選挙」、そして、この「地図にない町」が大森望氏の新訳で掲載されています。
ちなみに、長編1位は「ユービック」、短編最上位は、11位の「パーキー・パットの日々」でした。
