囚われのマーケット~P.K.ディック②

 片田舎で雑貨屋を営むエドナ・バーセルスン夫人は,毎週土曜日には,トラック一杯に雑多な荷物を積み込み,4時間かけて誰にも知られない配達を行っていた。 

 実は,夫人は,時空を超える超能力をもち,核戦争後の荒廃しきった世界にわずかに生き残ったコロニーをお得意先にしていたのである。

 彼らは,金星に向けての脱出に望みをかけており,生き残るための物資を夫人に頼るしかなかったのである。

 この夫人を,将来の世界がこのようになることへの危機感などカケラもなく,いい金づるをつかんだとしか考えていない,狭量ないかにも田舎の商売人として描いているのがミソである。

 コロニーの人々は,婆さんの機嫌を損ねないことが大事なので言い値払い。ただし,いくらむしりとられようが,金に価値のなくなった世界では痛くも痒くもないのではあるが。

 従前のヒエラルキーが崩壊したコロニー内の人間関係もギスギスしており,脱出の目的だけで,何とか保たれているという有様である。

 ようようにして,脱出準備が完了したコロニーの人々は,今までいいようにされてきた夫人に,もうお役目は終わったと言い放ち,ひとときの解放感にひたる。
 後は,無事,脱出が成功するのみだ。

 ところが,夫人も曲者だ。いかに,おいしい商売を続けるか。
 彼女は,特殊能力を,その観点のみに集中し,将来,発生しうる蓋然世界をスキャンしていく。そして,最も,商売に好適な世界を見つけて,ほくそ笑むのである。

 脱出に失敗したコロニーの連中の気の毒なこと!
 こんな悪夢が繰り返されるのか,そんな馬鹿なことが…

 

 ネタばらしをしてしまいましたが,これは,なかなかの作品だと思いますね。でも、ハヤカワから断続的に刊行された「傑作選」に含まれていないことが不思議です。

 小ずるい夫人の,みみっちい商魂が笑えるし,そんな婆さんに超能力が授かる皮肉,ましてやそんな婆さんに運命を左右されてしまう人々の耐え難い無力感など,魅力的要素がふんだんに盛り込まれています。

 新潮文庫「模造記憶」収録。