フランク・ハッドン軍曹は,第二次火星探検隊から帰還し,オハイオの故郷に戻る前に,訪れるべき場所が何箇所かあった。
苛酷な火星探検における様々な事故により,命を落とした仲間たちの両親,恋人たちから,ぜひ会いにきて,その死の様子についてどうだったかの話をしてほしいとの頼みを受けていたのであります。
痛々しいほど気の滅入っているフランク。
本当のことを言えるはずもない。
火星探検という華々しいイメージを勝手に描く世間の連中にはわかるまいが,現実の火星は,そんなロマンチックなところじゃあない。
ましてや,ろくでもない死に様を,どうしてそのまま伝えられようか。
これはまた,とびきりの苦い苦いお話であります。
離陸直後の閉ざされた艦内で死んでいった若者,着陸時の衝突による大破事故,火星の風土病,絶望的な暴動の勃発…。
いずれも,緘口令がしかれています。
精神的に痛手を受けているフランクにとって,死んだ若者たちの故郷を訪れる旅は,苦痛以外の何者でもありません。
彼らの両親や恋人を苦しめないための苦しい嘘をつく苦行。
段々,読み手の方も,フランクの気持ちが伝染してきて,気が重くなってまいります。
そんななか,少しだけ,フランクの心(読者の心も)が軽くなるシーンが出てきます。
「あれはただの作り話なんだろう?」
ぼくは答えた。
「ええ,ただの作り話です。」
彼が食いいるような目をぼくに向け,いった。
「きっとそれなりの理由があるんだろう。ひとつだけ教えてくれないか。どういうことだったにしろ,ブレックは正しくふるまったのかね?」
続きは,ちょっと,ほろりとするというか,ほっとするシーンとなります。
さて,この作品,あまりにペシミスティックで,宇宙探検の夢を打ち砕くような内容であり,掲載を軒並み断わられたいわくつきの作品だそうです。
まあ,1933年当時ですから,こんな先鋭的作品は,読者の神経を逆撫でしていたに相違ありません。
でも,この尋常ではない苦さ,若さのなさは,この嫌がらせのような作品の個性を際立たせていると思いますね。
もちろん,主人公のナイーヴさがあってのことですが。
個人的には,読んだハミルトンさんの短編では一番好きですね。
