去りにし日々の光~ボブ・ショウ①

 スロー・ガラス―光が,それを通り抜けるのに長い時間がかかる魔法のクリスタル。
 現在の風景は,ガラスの厚みの月日を経過して,未来に現れてくるのです。
 
 その価格は,年数単位で表される厚みと,実時間との誤差の少なさとに左右されます。
 1年もの,5年もの…まるで,ウイスキーの格の違いのようです。

 ボブ・ショウのこの作品は,このスロー・ガラスという魅力的なガジェットを活用した高名な作品です。

 スコットランド西岸のスロー・ガラス産地のとある店を訪れた夫婦が,その窓から見える幸せそうな若い母子に関する悲しい過去を知るというお話。

 ネタばらしをしてしまえば,その家の窓には,スロー・ガラスが嵌められていて,母子は不幸なひき逃げ事故により、すでにこの世にいないのです。

 スロー・ガラスの性質からして,ノスタルジックでほのぼのとした色合いの話になると予想していたのですが,正直,こんなに陰気な作品だとは思わなかったというのが率直な印象です。

 この夫婦も,仲が良くなく、ギスギスした会話には、こちらも鬱々とした感じになりますし,結末の後味も決してよいとはいえません。

 そもそも、舞台となる土地は、海岸沿いの荒涼とした高地にあり、景色も心象も同じトーンに包まれています。

 そんな暗鬱な作品ではありますが,やはり,スロー・ガラスを生み出しただけでも,名作となる資格があるといえる作品なのでしょう。

 ハヤカワ文庫SF「追憶売ります」に収録。もしくは,「SFマガジン 1998年1月号」に掲載。

⇒入手が難しかった作品の一つですが、「時間SF傑作選~ここがウィネトカなら、きみはジュディ」に収録されています。