マーケティング会社に勤めるエリザベスは,出世階段を上るための手段として,パイオエンジニアリングの処方を受けていました。
彼女の選んだオプションは,「キチン質」という融通無碍な機能分化が可能な物質でできている昆虫の能力を活用できるもので,仕事において,より的確,臨機応変な対応が可能となるという触れ込みの処置を,エリザベスは進んで受けたのであります。
形態変化はまず口から現れ,短剣状となります。
そして,仕事の打ち合わせの最中,突然ライバルであるハリー(彼は,おサルの形態に変化しております)の腕に走る毛細血管に口を差し入れたいという衝動にかられてしまいます。
一体全体,「蚊」になることが,仕事をこなすうえで,何かの役に立つのでしょうか?
アイリーン・ガンの,シュールでグロテスクながら,妙に現実感をしっかりと保っているという摩訶不思議な作品であります。
この作品は,SFマガジン掲載時に読んで,何とけったいな気持ち悪い作品だなと思った覚えがあります。題名も不思議ですものねえ。
作品後書きで,カフカの「変身」との関連が語られていますが,閉鎖状況の中で無抵抗状態となるというものとは違います。
誰もが,生体の操作を受けることに抵抗を感じない風潮の中で,いわゆるマイ・ペースの幸せそうな人物も登場してきます。
彼は処置を受けるなどバカバカしいと言い放つ人間ですが,なにか作者もこの男がうらやましいという感じが出てます。
うーん,組織内に,いるんですよね,こういう人も。ちょっと違うけれど,「浜ちゃん」タイプというものかな。
会社第一にしゃかりきのエリザベスは,上司トムの計算づくの不利益な決定に,ついに堪忍袋の緒が切れてしまいます。
その怒りが,速やかな機能変化を現出させ,エリザベスは,カマキリに変化し,トムの首を噛み切ってしまう!というものすごい展開になります。
でも,会社人間としてすべてを捧げ,会社に服してきたことの鬱屈が,それが報われないとなったとき,爆発して思い切った行動にでるという筋は,ハッピーエンドとはいわないまでも,一種爽快な気分にさせてくれることも確かであります。
結構,そういう行動に出たら,案外,以降一目おかれることになったということも,組織内ではままある話ですしねえ。
アイリーン・ガンさんも,マイクロ・ソフト社で宣伝販促部長を勤めた経験もあるとのこと。
先ほど,奇妙に現実感があるといいましたが,そういう経験の裏打ちが自然と作品に表れているのでしょう。
短編集の単行本では,「遺す言葉」を表題にもってきていますが,私としては,
原書どおり,この作品を表題にもってきてほしいところですね。

