世界の縁にて~マイクル・スワンウィック①

 トワイライト首長国アメリカ領内を越えると,そこは断崖が切り立ち,下を見下ろしても,底が見えない,まさに『世界の縁』(The Edge of The World)。

 断崖に設けられた一筋の階段。
 ラスとピギーとドナの若者三人は,ラスの先導のもとで,この階段をどんどんと下ることにします。

 階段はジグザグに折れ曲がりながら,無限に遠く,存在しない“下”に向かって断崖をくだり,かすんだ青の中に消えている。

 最初はまともな階段も,下るにつれ,だんだんと破損が目立ち始め,補修もされない朽ちた危険な状態と変わっていきます。

 はるか下ったところ,ようやく内部に細密な彫刻が施された洞窟のある平たい踊り場へと到着しますが,そこでラスは,ここを終の棲み家と定めた古い古い時代の修道僧たちの話を始めます。

 まだ世界が混沌としていた時代,念じることにより「あらゆるもの」を生み出すことのできる力を有していた彼らは,その力を利用しようとしたアルタザール王に対して,忘却の祈りを行ったのだと。


 果てしない折り返し階段を下る~単調ながらも,先の見えない不安,夢の中をさまようような,何かそそるものがあります。

 階段が荒れていく様子がえらくリアルに描かれ,いつ落下するかもしれない危険を冒しながら三人が下りていく道行きは,読む者のおしりがスースーするほどのヒヤヒヤ感を味わえます。
  
 物語は,洞窟に到着してからはリアルな階段降下描写とはうってかわって,急に幻想的な雰囲気を帯びてまいります。

 ラスの奇妙な虚無感,ピギーの虚勢,ドナの真面目さを帯びた投げやりさ?…寒々しい風がヒューヒューと吹きすさぶような荒涼たる状況であります。

 「存在」あるいは「現実」ということのはかなさと,もろさに対する苛立ち,そしてそのことを手に取るようにわかることへの怖れが,重くのしかかってくるようなお話です。

 1990年スタージョン記念賞受賞作。
 ハヤカワ文庫SF「グリュフォンの卵」に収録。
 スワンウィックさんは,実に多彩な才能,作風を有する人であることは,この作品集でもわかります。私は,「世界の縁」が一番のお気に入りなのですが。