C.L.ムーアといえば,「シャンブロウ」,「美女ありき」が有名ですが,私としては,この「ヴィンテージ・シーズン」が大好きです。
ある場所のすばらしい5月に,優雅な身のこなしと、尊大で自信に溢れた完璧さを漂わせる,不思議な異国情緒を感じさせる人々が集い始めます。
オリヴァーは,彼の古屋敷を破格の値段で借りた3人連れの中の,一人の女性クレフと親密になるうちに,彼らの秘密の一端を知ることになるのです。
彼らは,過去の時代の,最も,おいしいシーズンを渡り歩く「ヴィンテージ・シーズン・ツアー」に参加していることを。
だが,なぜ,彼らが,ここに集うのでしょうか。
この素晴らしき陽光の5月に,この場所に恐るべき災厄が襲ってくることを彼らは知っていたのです。
そして、オリヴァーの家は,その災厄を見物できる最高のポジションだったのです。
彼らは,傍観者に徹します。
このような災厄を,事前に知らせ避難させることもできたはずです。
だが,彼らが過去に干渉することは一切ありません。
彼らは,自分たちの満ちたりた世界に満足しており,それに影響を与えることを欲しないからです。
災厄を見物し,次の「ヴィンテージ・シーズン」へと去り行く人々。
その後の阿鼻叫喚と嘆きの世界にしばしとどまり,自らの芸術表現に活かして、喝采を浴びる天才作曲家。
この,確信を持った利己主義の前には,何も太刀打ちできないやりきれない虚しさが募ります。
クレフは,やや人情味があるのかなと思ったが,結局は,そうではありません。旅のアバンチュールを楽しんでいるに過ぎないのではないでしょうか。たいていの話では,こういう女性が救いのキーパーソンとなるのですが…。
オリヴァーの最後の抵抗も,瓦礫の中に埋もれてしまうのでしょうか。
バリイ・マルツバーグが,本編を「40年代のすべての中短編のベストワン」としたそうですが,確かに,なるほどと納得できる見事な作品だと思います。
「SFマガジン 1983年7月号」掲載。

