テレシアターの名優であったニコラス・ヘイズ。
しかし,酒がもとで,舞台をしくじり,とうとうお払い箱となってやってきたのは辺境の惑星。
彼は,犬のような不思議な生物ドッゴーンと,彼の崇拝者である女性モイラに出会います。
ドッゴーンは,ミニチュア・プードルぐらいの大きさで,わずかにつりあがった金色の目,少々長めだが先っぽでひろがった鼻面,頭の両脇にだらりとたれた毛むくじゃらの耳,そして,白い房となって終わる毛深いしっぽをもち,額の真ん中には,星形の白いぶちが輝いていました。
そして,この犬は,テレポテーション能力を有するのです。
モイラは,ブロンドの背の高い若い女性。
女優としては,うだつがあがらず,唯一の当たり役といえる,女アマゾネスの役柄でどさ回りをしているが,心優しい女性で,自棄になっているヘイズの面倒をみるのです。
ヘイズは,「バー・ラグ」と名づけたドッゴーンと,モイラとともに,一座を結成し,植民惑星を回る興行を行います。
バー・ラグの特殊能力をうまく活かしたこの芝居は,大当りをとり,その噂は,地球にも届き,ヘイズは,再度,オールド・ニューヨークの舞台への復帰を勝ち取るのですが…。
この作品は,ロバート・F・ヤングの甘い作品の中でも,特に甘いもののひとつであります。
それと,この人の描く女性の,いつもながらの現実離れしている従順さとけなげさは,モイラにも思いっきり該当します。
さらに,バー・ラグの可愛らしさと無垢ないじらしさが加わり,まさに,無敵の,センチメンタルなストーリーに仕上がっています。
ほんと,ロバート・F・ヤングは,いまどき,こんな,浮世離れしたハッピー・ストーリーは,気恥ずかしくて書けないというようなものを読ませてくれる貴重な作家であります。
この作者の最も有名な作品の「たんぽぽ娘」は,極めて印象的なフレーズでも有名ですが,この作品のラストのフレーズも詩的で美しい。
オールド・ヨークでは,季節は夏だろう。オールド・ヨークはいつも夏なのだ。だが,ここ,火星のニュー・ノース・ダコタでは,季節は春だった。
ハヤカワ文庫SF「ジョナサンと宇宙クジラ」収録。
