SF短編100本目は,私の大好きな「ラッキー・ストライク」。筋を全部書いてしまっているので,ご注意のほどを。
太平洋戦争末期,北太平洋のテニアン島に駐留する第509混成群団。
指揮官のティベッツ大佐は,ルメイ将軍から,問題の投下任務を受けることの了承を得て,試験飛行を行ったのですが,エンジン・トラブルにより,爆発炎上。
この爆撃機の名前は,「エノラ・ゲイ」でした。
急遽,任務遂行のため,予備班が招集されます。
爆撃手として指名されたのは,ジャニュアリー大尉。
彼は,優秀な爆撃手であったが,仲間たちとは一線を画すものがありました。
命令に従って行った行為に対する責任について,一切を放棄することができる人間ではなかったのです。
彼は,乗り込む機が,「ラッキー・ストライク」と名づけられたときから,「キャメル」しか喫わなくなったような男なのでした。
ジャニュアリーたちを集めて,今回の特殊任務に対する極秘ブリーフィングが行われます。
ニュー・メキシコでの核実験のフィルムのすさまじさに,一同は息を呑みます。
太陽よりも熱く,4マイル四方を破壊しつくす爆弾を,日本の都市の上空で炸裂させようというのです。
ジャニュアリーは,何も考えまいとします。それでも,襲い来る悪夢に呻吟するうちに,投下飛行の日が近づいてきます。
そして,いよいよ,その日。離陸,順調な飛行,投下準備も滞りなく完了。
ジャニュアリーは,なぜ,こんなところにいるのだろうと思います。
…何も人々の頭上に落とさなくてもいいじゃないか,作戦変更で,東京湾に投下するだけでもデモンストレーション効果は十分なはず,それもかなわぬならば,いっそ,乗員たちを殺害してしまうというのは…
ジャニュアリーの頭の中で,白昼夢がめまぐるしく行き交います。
大統領,高級将官,科学者,そして,機長も,他の乗組員も,直接,手をくだしはしないのです。その手で,爆弾を投下するのは,ジャニュアリー大尉なのです。
「ラッキー・ストライク」は,ヒロシマ上空に接近。
市内中心部に照準を合わせて,(ジャニュアリーのタイミングが遅れる!),投下…
原爆は,市内をそれて,山中で爆発,ヒロシマは無傷にすんだのです!
ジャニュアリーは,帰還後,軍法会議で裁かれることになります。
侮蔑と嘲笑にさらされるなか,ジャニュアリーは,若いカソリックのゲッティ司祭と心打ち解けるようになります。
そして,司祭から,第二陣のコクラ爆撃も,装置故障により,市街を外れて爆発したこと,そして,日本が降伏を決意したことを知ります。
飛び跳ねて喜ぶジャニュアリー。「わたしのいったとおりになったんだ!」
だが,軍令違反による,ジャニュアリーの銃殺刑が取り消されることはありませんでした。
彼は,知る由もなかったが,後に,ゲッティ司祭を中心として,ジャニュアリーの遺志をつぐ「ジャニュアリー協会」が設立され,その活動は多くの人々の賛同を得て,核廃棄の流れは次第に大きく,やがて政府を,そして世界を動かすことになるのです。
物語は,従容として,処刑棟におもむく,ジャニュアリー大尉のゲッティ司祭との会話で締めくくられます。
「処刑に使う銃のうち,一挺だけは空の薬莢がはいってるんですって?」
「そのとおりです」
「それでは銃殺隊の誰もがみんな,射殺したのは自分でないかもしれないと想像することができるわけですね?」
「ええ,そのとおりです」
「でも,わたしにはわかるんですよ」
いわゆる改変世界ものの作品。
日本人にとっては,とりわけ,ジャニュアリー大尉に感情移入してしまうことでしょう。
アメリカの世論では,原爆投下を正当化する(させるかな)のが大勢であるなか,このような作品を発表する作者の勇気と良識に敬服するとともに,それを受け入れる「健全さ」があることに,ほっとすることも事実です。
戦争肯定もの,反戦もの…,安易なレッテル貼りは禁物だけれども,一辺倒ではないということが大切だと思います。
1985年度ヒューゴー,ローカス賞,1984年度ネビュラ賞ノミネート作品であり,一応、正当に評価されているようにも見えますが、受賞を逃しているのをどうみるか。(ちなみに,受賞作は,オクテイヴィア.E.バトラーの、トリプルクラウンの名作「血を分けた子供」なので、結果に依存はないのですが。)
ともかくも,「ヒューマニスト」たる作者の本領が全開した感動的作品です。
もちろん,感情に溺れることなく,見事にまとめられており,作品そのものの値打ちが高いことは,ご安心を。
「きれいごと」といってしまえば,それまでなのだけれど,そうあってほしいという気持ちは,本当のものではないかなあ。
「SFマガジン」1996年9月号掲載。
この号は,伊藤典夫氏監修の「戦争SF特集」で,この作品をはじめ,フレデリック・ポールの「フェルミと冬」,ジョー・ホールドマンの「死者登録」,アレン・スティールの「戦争記念碑」と秀作が目白押し,さらに,周辺状況を広く考察している詳細な解説もありの,実に質の高い特集となっています。
