プリティボーイ・クロスオーヴァー~パット・キャディガン①

 巨大なスクリーンに明滅し躍動するプリティ・ボーイ。 

 仮想空間での生を選択し,永遠の若さと美しさを手に入れて,世界中の注目を浴び続ける。
 こんな素晴らしい世界への切符を手に入れることができるのは,本当のプリティ・ボーイだけ。
 一体,何を躊躇する必要がある?…

 しかし,主人公は,エージェントに不信を抱きます。

 自分の脳細胞で考え続けること,連中がプログラムするのに利用しないような些細なことまでも思考できることに,意味と価値を見い出すのです。
 
 少年の選択は,反サイバーパンクであるが,ダンスビートをバックに,きらびやかさで猥雑なエンターテインメントの仮想世界とそれに対峙する少年を,鋭敏な感覚で描き出す,サイバーパンクの代表的短編の一つです。

 ルイス・シャイナーが,“サイバーパンク”の文章について,「ロックンロールのエネルギーと,ビデオテープの鮮明さが必要だ」と言っているが(「SFマガジン 1986年11月号」サイバーパンク特集解説より),まさに,この作品は,ドンぴしゃりという感じです。

 ちなみに,発表当時(1986年1月)前後の全米チャートを振り返ると,Whitney Houstonの「How will I Know」,Heartの「These Dreams」,Falcoの「Rock Me Amadeus」,Prince & the Revolutionの「Kiss」,Robert Palmerの「Addicted to Love」,Pet Shop Boysの「West End Girls」などなどの曲がNO.1に輝いていました。懐かしいですね。

 なかでも,最もかっこよかったのは,Dire Straits「Money for Nothing」

 MTV全盛時の商業主義とそれにのっかかるミュージシャンを強烈に皮肉ったこの名曲は,この作品と通じるところがあります。
 (蛇足)
 曲のラストのコーラスにスティングが友情参加していますが,たった

「I Want My MTV~」

のフレーズのみなのに,スティングの所属レーベルが,スティングの抵抗にもかかわらず,著作権の主張を譲らなかったという,あさましい話が有名です。

SFマガジン 1986年11月号」掲載。