バーナム博物館~スティーヴン・ミルハウザー

 バーナム博物館には,いくつ部屋があるのか,考えれば考えるほどわからなくなってきます。

 迷宮のごとく,全容の判然としない摩訶不思議な空間。 

 人魚の池,空飛ぶ絨緞,透明人間の森…夢・物語の世界がここにはあります。

 学術的価値のあるものの展示という枠組みを超えた,興味をそそる,あやしげで,実に魅力的な,幻想の玩具箱のような博物館。

 「崩れかけた階段をさらに下ると地下三階に出る。ここまで来ると,土の通路には石ころが散乱し,湿った石壁で松明がぱちぱちと燃え,浅黒い肌をした小人たちの一団が突如どこからともなく現れて,またこそこそと闇のなかに消えてゆく。」

 いいですねえ…。
 このような,静かで確かな文章が,この虚構の世界をしっかりと支えているように思います。

 昔,大英博物館で半日過ごしたことがありましたが,あれは,うれしく楽しかったですね。

 半日では,とても回りきれないほどの沢山の展示室と展示品の数々。

 でたらめに歩き回って,アッシリアの石像に出くわしたときの驚き。

 バーナム博物館には,歴史的重みはやや薄いかもしれないが,博物館好きな人であれば,この物語に引き込まれること請け合いです。

 日々,建て増し,取り壊し,模様替えが行われ,また,博物館に勤める人々も,その一部と化しているかのようで得体が知れず,謎めいた雰囲気を大いに深めるばかり。

 時折あがる,博物館への批判の声,悪い風評も,かえって興味をかきたてるスパイスのようなものです。

 虚実が渾然一体となった,日常を離れた,この異空間へ,私も,ぜひ訪れてみたいですね。

 いったん入ったら,再び出られないのではないかも。
 そのような不安感と,一種の恍惚感も味わえるんだろうなあ。

 翻訳も流れよく,ああ読めてよかったと思える作品でありました。

 「幻影師,アイゼンハイム」もよかったです。

 白水Uブックス「バーナム博物館」所載