野戦基地から夜間パトロールに出ての帰り,レスティグ兵長は,敵の仕掛けた罠に踏み込んでしまいます。
猛毒を塗布された鋭利な竹の杭を踏み抜く瞬間,闇の中から“バシリスク”が現れ,毒を中和し,再び闇へと消え去った…と同時に,レスティグは、尖った杭を踏みつけてしまいます。
彼は,捕虜となり,右足を切断され,むごたらしい拷問を受けます。
ついに、彼は,友軍の位置と動静,作戦計画…洗いざらいを白状してしまいます。
だが,追求はやみません。
レスティグは,奈落の底に落ちてゆきながら,生きようと呼気を吐き出したとき,恐るべきことが起こりました。
救出された彼は,対敵協力の廉での軍法会議のあと,ようやく名誉除隊の身となり,故郷カンザスへと向かいます。
そこで,彼は,妹から,彼の家族に何が起こったのかを知ります。
「いっそおれが有罪と宣告されて,銃殺されるか,監獄行きになればよかったってか?」
「ごめんなさい,ヴァーノン。でも,なぜ兄さんは,あたしたちをこんな目にあわせるの?なぜ?」
放心のレスティグは,町の「陸海軍戦没将兵記念碑」の歩兵像の足元にうずくまっていました。そこへ町の群集が殺到します。
彼は,彼らを見すえます。見すえられた者の顔は,消失し,腐肉がぶすぶすとくすぶります。群集は凍りつきます。
「這え!這いずれ!勇敢な愛国者どもめが。這え,そうすればわかるだろう,おまえたちのスローガンがお題目でしかないってことが。おまえたちのルールは,他人のためのものでしかないってことが!這え,おまえたちのケチな命のために。そうすればわかる!這え!這いずれ!」
反感を買うことを承知の上で,暴き出されたくないことを強烈に暴き立てる実にインパクトのある作品です。
拷問あるいは脅迫を受けた末,生きるためにやむなく行ったことを,誰が批判できるのだろうか。我が身に置き換えた場合に,他人事のように言う英雄的行為が,果たして可能なのであろうか。
終幕のレスティグの怒号も,まさに,血の叫びですね。
当事者でないことに安住し,人間であることの弱さを見せた人間を徹底的に糾弾する大衆への憤怒と絶望。
レスティグを徴募した軍神マースは,バシリスクの背をなでながら,一幕の劇を堪能した様子です。
最後の言葉は,「すべからく人民に力をあたえよ」であるが,これはどういう意味だろう。理不尽で、容赦のない、人間の持つ悪の面により力を与えると、一層見ごたえのある悲劇が生まれてくるということなのだろうか。。
1973年度ローカス賞短編部門受賞作。
講談社文庫「SF戦争10のスタイル」収録。
ちなみに,“バシリスク”は,ローマのプリニウスの「博物誌」のなかで北アフリカの砂漠に棲んでいたとされる蛇の一種と記されているらしいです。視線に致死作用があり,人間は見られただけで死んでしまい,その吐く息にも毒があるといいます。

