―パパに言われて,ぼくは余分の空気を一杯取りにいった。バケツがほぼいっぱいになるまですくいいれ,指がそろそろかじかみかけたとき,それが見えたのだ―
地球を襲った暗黒星の通過は,壊滅的な大被害をもたらすとともに,地球を太陽系から連れ去ってしまったのです。
太陽から遠ざかることによる寒冷化により,やがて大気は,水蒸気,窒素,酸素と凝固点の低い順に地表に降り積もっていきました。
もはや,人類の運命も風前の灯火であり,ビルの一室にこもったある一家が,明日をも知れない生活を送っていたのです。
暖炉の火を絶やさないこと,そして,時折,階段を降りて,酸素の塊りをバケツに入れてもちかえってくること,それが,彼らが一日でも長く生き延びるために必要なことでした。
凍結してしまった街と,人形のように凝結した人々。
その上に,階層をなして降り積もる空気。星の光が乱反射する。
酷薄で,不気味な美しさをたたえる幻想的な情景です。
凍結した人間という気味悪い伏線を張っておいて,彼らの住処へと迫ってくるものへの不安感をつのらせる手際は,ライバーらしい怪奇趣味をうかがわせて面白いですね。
自分たちが,人類最後の生き残りかもしれないという痛切な孤独感。
そんな神経衰弱になりそうな日々から解放された彼らの気持ち,そして「なんとしてもこの火を立ち消えにしてしまうのが,正当なこととは思えないのですよ」という父親のセリフ,わかる気がします。
ところで,数年前に,青少年科学センターなるところで,子供たちといっしょに,酸素の実験を見せてもらいましたが,液体酸素でしけれども,確かに薄い青色をしており,非常に美しかったことを覚えています。
ちなみに,酸素の凝固点が―219℃,窒素は―210℃らしいです。
バケツを持って、気軽にすくいに外に出られる温度でもないですね。。
さて,この短編は,かつて,サンリオSF文庫から刊行されていたライバーの短編集のタイトル・ナンバーです。
この短編集のラインアップをみると,ライバーのベスト盤ともいうべきものですが,いかんせん,入手困難・価格高騰。
ライバーの作品は,<ファファード&グレイ・マウザー>シリーズ以外は軒並み絶版状態。
短編集の復活も期待薄でしょうね。
⇒2010年に、奇想コレクションの一つとして「跳躍者の時空」が刊行されましたが、文庫化はされず、古書価が上がっているようです。
「バケツ一杯の空気」は、「SFマガジン」1998年1月号にも掲載。

