電力会社の新規事業担当副社長のマクスウェル。
彼は,ボカ・インフィエルナ発電所への原子力発電所の建設を担当しており,多くの住民が,懸念を表明し,抗議のデモ活動を行う中で,ようやく最後の公聴会を開く段階にまでこぎつけていた。
だが,彼は,近頃不思議な悪夢あるいは幻にうなされていた。
被爆地の直後の惨状に放り出される夢を見,そして,時折,花の首飾りをした小さなかわいい日本人の少女が眼前に現れ,“バク”をかたどった「根付」を手のひらにのせて,彼に差し出すのである。
彼は,かつて,ナガサキへの原爆投下の担当将校でもあったのだ。
エドワード・ブライアントのSFは,非常にパーソナルで,繊細な,散文的イメージが強く,ややとっつきにくいところもあります。
その点では,この作品は,読みやすい部類に入ると思います。
業務を遂行しようとするマクスウェルですが,やはり心の奥底には,思いもよらない事故が将来起こるかもしれないという「不安感」,過去何十万もの人の命を奪うこととなった体験からくる「罪悪感」があるのでしょう。
これがマクスウェルに悪夢をもたらします。
幻の少女が差し出す“バク”は,悪夢を食ってくれるという動物です。
でもねえ,この悪夢を止めることができる“バク”とは,結局,マクスウェルの選択にかかっているんですね。
物語としては,それはそれでよろしいが,個人の行為に帰してしまうのはちょっとねえ。
まあ,組織の責任にして,個人の責任を逃れるというのも釈然としないものではありますが。
どうでもよいことですが,少女については,着物を着たお人形さんのような少女にしてもよかったのじゃないかな。
あの和人形に感じる感覚,なまめかしささえ感じさせる和風の幻想味と被爆の悲惨さとのコントラストがより際立つのではないかと思います。
ハヤカワ文庫NV「ハード・シェル」収録。
