ハリスン・バージロン~カート・ヴォネガット・Jr①

 2081年,人びとはとうとう平等になった。神と法のまえだけの平等ではない。ありとあらゆる意味で平等になったのだ。人より利口な者はいない。人より見ばえのする者はいない。人より力の強い者も,すばしこい者もいない。

 ハリスン・バージロンは,ジョージとヘイズル・バージロン夫妻の14歳になる息子。
 政府は,夫妻のもとからハリスンを連れ去ったのですが,夫妻はこの件をあまり深く考えることはできませんでした。

 なぜなら,ヘイズルの頭脳は人並みで短時間しか考えを集中できないし,一方,ジョージは人並みすぐれた頭脳を有しているため,耳に「思考ハンディキャップ・ラジオ」を着けていたというか、着けさせられていたからです。

 このラジオは,ジョージが何か考えを集中しようとすると,強烈な雑音により,その思考を吹き飛ばしてしまいます。

 そればかりか,ハンディキャップ袋という名の,散弾の詰まった袋を首にぶら下げていたのです。家でくつろぐときさえも。

 「もし,わたしがとろうとしたら,ほかの人もまねする。そしたら,たちまち暗黒時代に逆戻りだ。だれもがおたがいに競争するような世の中にね。そんなのはいやだろう?」

 ハリスンは,優秀に育ち,それを弱化するためのハンディキャップの付加も並大抵のものではありませんでした。

 ところが,ハリスンは,それをものともせず,ついに,このような体制に反旗を翻し,単身TV番組への乱入を実行したのです。

 
 つらつらと粗筋を書いてしまいましたが,完全な平等を保障するため,監視組織を末端にまで張り巡らしている中央集権的な統治の世を,ペシミスティックな、ざわつくユーモアでもって描いている作品です。

 一読すると,エリスンの,「悔い改めよ!ハーレクィンと…」と似ていますが,本作の方が,夢も希望もない物悲しい終わり方となってしまっています。

 最後まで,荒々しくドライなタッチで描かれていますが,結末の実につらい部分と,意外にうまく中和して,突き放しているようで,そうでもないような,不思議な余韻を残しているように思います。

 ハヤカワ文庫SF「モンキー・ハウスへようこそ①」に収録