大学の“動物研究所”と呼ばれる動物実験室に向かう研究者リップシッツ。
彼は,心優しく,研究対象であるネズミに,慈悲の気持ちを持ってしまっているのか,傍目からは酷く見える有益な実験をすることができなかったのであります。
おかげで,彼のネズミは代を重ねて増えるばかり。
おまけに,主任教授から呼び出しをくらい,もっと“金”になる研究成果を出さないと,助成金もストップするぞと最後通告を出される始末。
そんなリップシッツは,ある夜のこと,無数のネズミが集まって大きな“鼠の王”を形成し,実験動物たちを従えて,地下室の奥の闇の彼方へと進んでいくのに遭遇します。
いやいや,不器用な人生を送っているリップシッツさん。この姿には,思わず感情移入してしまいます。
かたや,大学の同僚たちは,子ネズミの頭を容赦なくスパーッ,スパーッと切り落とすは,アカゲザルの頭の毛を剃り,脳に電極を差し込んで反応を確認するは,それはもうシャープな実験を繰り広げております。
リップシッツさんは,別に動物愛護団体の人間じゃあありません。
同僚たちが,別にサディストであるわけではなく,単に研究の成果を得る目的だけで,恨みも“悪気”もないということは当然承知しています。
でも,リップシッツさんには,ネズミたちを簡単に殺すことはできない。ため息をつきながら,一匹一匹供養するように始末する彼の前に,その“鼠の王”と動物たちの行進が始まります。
「連れて行ってくれ」と叫び倒れ伏すリップシッツさん。
翌朝,目覚めると,すっかり気分がよくなっています。
俺は何を悩んでいたんだろうとばかりに,口笛を吹きながら,てきぱきとネズミを処分し,新しい実験計画の想を練る彼には,力強さがあふれています。
うむむ,わかりやすいですな。
すっかり生まれ変わった彼は,心の“余計な”部分を連れ去ってもらったわけですね。
というわけで,動物虐待への抗議小説といえばそうなのでしょうが,強者がその価値観により弱者を思うがままにすること,また,それが,強者にとってもっともな理屈がついており,罪悪感すら感じていない…そのことへの嫌悪感が感じられる作品であると思います。
もちろん,動物実験による人類への貢献は高いわけで,単純にかわいそうの世界ではなくて,比較考量の世界なんでしょうが,動物たちの受忍限度というものはなきに等しいんでしょうからねえ。
