近未来,世界は,NAFTA(北米経済連合),EU,アジア協力圏の3極が南と呼ばれる第三世界と覇権争いを行っていた。
スパイダー・ピートとカトリンコは,軍事スパイとして,タクラマカン砂漠にあるとされる秘密軍事基地を探る指令を受け,潜入。
かつての地下水爆実験による巨大な地下空洞に彼らが見たものは,この閉ざされた世界の中で,変異を遂げながら増殖する機械の群れと星間宇宙船に擬装された施設内で隔絶された生活を送る人々でありました。
「チャタヌーガ」三部作といわれる作品群(「ディープ・エディ」,「自転車修理人」,「タクラマカン」)ですが,個人的には,「タクラマカン」が最も面白い作品でした。
ほとんど有機生命体と変わらないような機械のイメージが豊穣です。
ざわざわと蠢く機械体が溢れかえる様は異次元の世界を見るようで素敵です。
身体と融合して機能を発揮する,ジェル・カメラなどのハイテク機器のガジェットも豊富で,あまりに有機じみた,ぬめりとした感じの異様さがよろしい。
こういうところが実に生き生きとしており,作者の好きなところなんだなというものが伝わってくるようです。ちょっとグロテスクで悪趣味かな。
ピートはピックをふりおろした。剃刀状の先端が,鈍いバキッという音をたてて怪物のコルク状の頭を切断した。それはたちまち動かなくなり,天井に釘づけになっていた。やがて,いやなガサガサという音をたてて,ロボットは疑いを知らないワックス状やフィルム状の付属品を展開させた。複雑な虫の舌,噛むことのできる掻器,小さく繊細なへらといったものが,腹の下からひらひらと出てきた。死なないのだ。
ともあれ,こんな自己増殖を図る死なない機械生命体が,地上にあふれ出たら,えらいことになりますね。
でも,作者は,そんな危機感というよりも,この状況自体を楽しんでいるようです。この作品の魅力は,無秩序に沸き立つような混沌なんでしょうなあ。機械=異物という感覚が薄いという感じです。
悪く言えば,目まぐるしくもバカバカしい設定(性のない人間であるカトリンコ,少数民族対策として,こんな宇宙船に閉じ込めるという発想もすごいです)も,お遊びのようです。
制御できない状況に,主人公は,「やれやれ」とつぶやくのでありますが,はてさて,そんな軽いセリフで片付く事態なのでありましょうか。
1999年度ヒューゴー賞,ローカス賞ノヴェレット部門受賞作。
