時と場所を選ばす,突如,現出するミサイルのごとき飛行物体。
低空を緩慢な速度でまっすぐに進行し,あるときは一時間,あるときは一日,不特定の時間と不特定の距離を航行し,現れた時と同様に,いきなり消失してしまいます。
そして,時に爆発し,半径2マイルに及ぶ円内の全てを溶解し,完全なガラス面に変えてしまうのです。
人々は,その物体を「スロー・バード」と呼びました。
何処の,誰が,何のために,何機,飛ばしているのでしょうか,皆目検討もつきません。
人々は,スロー・バードを受け入れざるを得ず,次第に,その存在に適応した生活を営みはじめます。
さて,物語は,悪戯で「スロー・バード」に結わえ付けられ,スロー・バードともども消失してしまった少年と,彼を捜索する兄の,それぞれを中心とした,スロー・バードへの対し方についての話です。
兄もまた,スロー・バードに結わえられる羽目になるのだが,彼の場合は,消失も爆発も免れ,その体験により一種の「悟り」を開いて,伝道師となったのです。
一方,少年の方は,スロー・バードを飛ばしている異次元の世界に行って,スロー・バードとは何か,そして,この世をスロー・バードから救う方法を教えてもらいます。
少年が,この世界に戻ってきたとき,兄を筆頭に,スロー・バードを「神」のごとく扱う人々との争いがはじまります。
大森 望氏が,「重厚バカ」と称する,イアン・ワトスン先生の作品は,なかなかに手強い。
だが,知的に練り上げた重さが,歯応えがあって、読みごたえもあります。
兄が受けたのが,いわゆる「啓示」というものなんでしょうか。
気まぐれで,わけわからないが,強大な力を有し,自分たちの力ではどうにもならない存在。
それを否定できない場合には,何らかの「意味」をつけなければなりません。
兄は,「スロー・バード」を“永遠の沈黙の,偉大にして純粋なる虚無”を体現するものとして,忍従を説きます。
一方,「スロー・バード」の神秘性をはぎとるがごとき弟の言動とは,全く相容れないのは当然です。
変てこな物語ながらも,不思議に哲学的な味わいのある独特の世界感が面白いですね。
さて,ハヤカワ文庫SF「スロー・バード」は,日本オリジナル短編集で,えりすぐりの作品が揃っていますが,残念ながら絶版。
復刊コムでも,わずか1票!しか投じられていないという始末では,復刊など遥か彼方のことかなあ。
⇒2007年6月に、カバー新装で重版されています。それでも、もう18年にもなるのか。
