この作品は,相当,奇想天外なストーリーです。
宇宙が縮小しはじめ,物質世界が凝縮されていくことを知った人類は,なんとか自足できるレベルの都市自体をドームで囲い,可能な限りの強力な推進装置を設置して,縮みゆく宇宙の壁を突破しようと試みたのです。
同じような試みは,この事実を知った宇宙の知的種族からもなされていたのであるが,結局,壁を抜けることができたのは,この「シティ5」だけだったのです。
虚無の中に浮かぶシティ5…この自己完結の小さな儚い世界。
物質世界の最後の砦として,ここを守り抜くために,少数の指導者たちは,現状の維持を第一としますが,「進歩なくしては,座して待つ死があるのみ」とする勢力が台頭し,シティ5は次第に内戦の危機を迎えます。
そんな内輪の争いとは別に,シティ5を飛び出し,この虚無の世界の果てを突き進んでいた,ある男女は,「非存在」についての哲学的認識を得て,再び,シティ5へと戻ってくるのですが…。
ワイド・スクリーン・バロックと形容される作品群で有名なバリントン・J・ベイリーの作品。
私も,「カエアンの聖衣」のすごさにびっくりしたことを覚えていますが,この短編も,科学的?なアイデアがふんだんに盛り込まれ,幻惑されそうな派手で壮大なストーリーを楽しむことができます。
終わりがペシミスティックなんですけれどね。
何やら,ユング哲学なるものを持ち出しているそうなのですが,不勉強な私には,よくわかりません。曼荼羅が出てくるのは,バラードの「時の声」と似ていますが,ここらを踏まえておかないと,作品の意味がつかめない場合があるのかなあ。教養を要求しますね。
「SFマガジン 1983年6月号」300号記念号掲載。

