ゴーゴリの妻~トンマーゾ・ランドルフィ

 ぷらぷらと本を読んでいると,たまに目を剥くような面白さの作品が現れるというのが,本読みの楽しみでありますが,この奇抜な作品もそうであります。

 なんせ,文豪ゴーゴリの妻が,肛門部分から空気を入れて膨らませる仕組みの精巧にできたゴム人形であったという物語ですからねえ。

 この私にあるのだろうか?忘れがたきわが友自身,世間からひたすら隠しつづけた秘密,広く知らしめたところで悪意と愚劣さにみちた曲解を誘発するばかりにちがいない秘密を明かす権利が?

 この猟奇的な驚愕の事実を暴露しておきながら,「曲解」を招くなどというたわごとを述べている“伝記作者”の一見真面目なような,それでいて人を食ったような得体の知れなさが,この作品の味になっていると思います。

 それにしても,空気の量を微妙に調整し,肌の色を変え,髪をなぶり,“理想の妻”との日々を送るゴーゴリは,れっきとした変態ではないですか。

 だいたい筋が読めますとおり,次第に,ゴーゴリは妻に支配されるようになっていきます。

 友人たる作者は,あろうことか,ゴーゴリの妻の声を聞くことになります。

 と,喉にひっかかったような,弱々しい,初夜の床のヴィーナスもかくやという声で,出し抜けに彼女がこう言った。―「私,うんこしたい」。

 びっくりしましたねえ。そうくるか…ストレートやなあと…。

 これはちょっと,後半,収拾つかない展開になるのかと思いましたが,一定のラインは踏みとどまりましたね。

 とはいっても,グロテスクさは,最後まで全開です。

 こんなアブない作品で,ランゾルフィさんは何を言いたかったのでしょう。
 
 ゴーゴリの有する不条理な部分と,隠された背徳的な部分が,この人形に投影され実体化してしまったのでしょうか。

 実は,私は,ゴーゴリの作品をそれほど読んだことがないのでありますが,こんな作品を読んでしまったので,変な先入観が入ってしまいました。
 そこは,不本意なものがありますけれど、それだけ,インパクトのある作品だといえます。