コーラルDの雲の彫刻師~J・G・バラード④

 いやもう,暑いですなあ。京都は盆地でありますゆえ,並みではない気温となりますが,体温より高くなるとちょっとねえ。それでも,そろそろ,ツクツクホーシが鳴きだしております。

 さて,バラードさんの創り出した耽美的リゾート地~「ヴァーミリオン・サンズ」~のシリーズの一編であります。

 この地に流れ着いた,退役パイロットの私,そしてノーラン,プチ・マニュエル,ヴァン・アイクは,砂礁脈からの上昇気流により湧き起こる積雲を,グライダーを操りながら,自在に刈り込む―「雲の彫刻師」のグループを組んでいたのであります。

 そんな彼らの元に,滞在中の裕福な未亡人レオノーラから,園遊会の呼び物として演技の要請が入ります。

 美しく傲慢なレオノーラは,何不自由のない境遇ですが,夫の自殺にとかくの噂も立てられ,奇妙な陰と狂気を宿す女性です。

 演技二日目,嵐の前触れのような天候の下で,レオノーラは彫刻師たちを挑発します。

 彫刻師たちは,黒々とした,空を覆う積雲に向かって飛び立つのですが…。


 雲の彫刻~雲を刈り取り,姿を掘り出し,すぐに流れるように崩れ,消えていく~はかない移ろいの芸術,これは実に,“滅び”の雰囲気漂う「ヴァーミリオン・サンズ」にふさわしいものでしょう。非常に魅力的な産物であります。

 最近はとんと感性が鈍ってしまいましたが,子どもの頃は,あの雲が何に似てると言い合いっこしてたことがありましたね。

 破滅の女神のようなレオノーラに,運命のように引き込まれていくという筋書きはお定まりです。

 そんな彼女に対抗するがごときノーラン。
 彼のシニカルさもなかなかのものです。

  演技一日目,ノーランがレオノーラの美の翳りと時の流れの残酷さを雲の彫刻で表すシーンが辛辣で素敵です。

 その肖像は,残酷な皮肉をこめて,気味の悪いほど生き写しに作られているのだった。レオノーラの唇の下向きのカーブ,のどに皺をよせないよう高くもちあげられたあご,右頬の下の肉のたるみ―これらのすべてが,アトリエにあった油絵とおなじように,雲の顔にもそのまま移されていた。

 ひと夏の夢幻のような物語です。

 まあ,物語として読む分には,面白いのですが,こんなリゾート地はちょっと気が滅入ってしまうんじゃないですかね。