水虫,禿,そして風邪を治すことができれば,ノーベル医学賞ものと聞いたことがありますが,このお話は,風邪の特効薬によって発見された人類進化の秘密(そんな大層なものではないのだが)をユーモラスに描いています。
コフィン博士は,その成果を全米臨床医学会年次総会の最終日に発表。
人類が永年悩まされていた身近な病気が,ついに根絶される日がやってきたと。
博士の発見は,たちまち,センセーションを巻き起こします。
ワクチンがフル回転で量産され,世界中の人々にいきわたり,素晴らしい効果を発揮します。
ところが,博士の臨床試験は,十分ではなかったのです。
風邪ウィルスが一掃されることで,嗅覚器官が,その本来の鋭敏さを取り戻したため,あらゆるものの臭いという臭いが,いたたまれないような苦痛をもたらすことになったのです。
強烈な臭気にたえながら,博士は思う。
実は,風邪ウィルスと共存してきた人類は,そのために貧弱となった嗅覚を補うために,他の器官と脳を発達させ,それが進化につながったのではないだろうか。
ともかくも,もう一度,風邪をひかなければ!
アラン.E.ナースは,50年代に活躍したお医者さん作家。
本作のようなユーモア系とともに,宇宙飛行士の資質を問う「悪夢の兄弟」や,水星の近日点踏破を描く「焦熱面横断」などの荒々しいタッチの作品もある,意外に幅の広い作家です。
コフィン博士は,変異を繰り返すウィルスの変異を凍結する画期的な抗体を発見するのであるが,これが現実なら,鳥インフルエンザの封じ込めも可能なんだろうけどなあ。
ラストは,何とも,脳天気でお気楽だが,考えると実に怖い。
手に負えないウィルスが蔓延してしまったら,いったいどうするつもりなんでしょうか。
各種ウィルスの脅威にさらされる現実では,洒落にもなりません。
それこそ,“Coffin”が足りなくなるような惨状になるのでは。
講談社文庫「世界ユーモアSF傑作選 1」収録。
