ここ数年,ネパールはカトマンズゥに滞在するジョージ・ファーガスン。
ホテルにたまっていた他人宛の手紙を読んだところから,話は始まります。
差出人のネイサンなる青年が,なんと,イエティ!に出くわしていたのです。
しかも,そのイエティから,首飾りを贈られていたとは。
数日後,ファーガスンは,ホテルで,死に物狂いで手紙をひっかきまわしている男を発見します。
もちろん,その男は,ネイサン。
ネイサンが頼りにする,手紙の宛て主であるジョージ・フレデリクスと,何とか合流。
ネイサンは,イエティが捕まえられて,エヴェレスト・シェラトン・インターナショナルなるホテルのスイートに拘束されているらしいという情報を耳にし,その救出のためにフレッドのところまで,飛んできたといいます。
ここから,イエティの救出作戦がスタート。
このホテルには,カーター元大統領が滞在しているというおまけつきで,ドタバタ劇が繰り広げられます。
いやもう,涙と笑いありの痛快活劇という,映画の娯楽作品と同様,素直に楽しめる作品です。
このイエティは,かなり知的な原人として描かれており,何より,可愛らしい。
むくつけき姿かたちなんだけど,ほんとうに愛嬌があって,守ってあげたいという気持ちにさせるんですよね。
陽動作戦が見事成功し,イエティを故郷に帰してやるシーンは,じーんと来ます。
イエティ救出に協力した連中も,みんないい人たちです。
ほんとの善人のネイサン,彼は,一目でイエティが心を許すような人だから,世渡りがうまいとはいえません。
そんな彼が,恋人も取り戻す大団円は,善人が報われない世の習いをひと時でも忘れさせてくれる清涼感があります。
でも,イエティたちが,文明に毒されず,静かに,そっと暮らしていけるのでしょうか。現実には,一度見つかれば,もうおしまいでしょうね。
キム・スタンリー・ロビンスンは,「レッド・マーズ」,「グリーン・マーズ」などの火星SFで著名。
大学の先生で,知的な“文学派”であり,いわゆるヒューマニスト派。
語りのうまさはもちろんのこと,この作品のようなユーモアものも達者なんだと感心しました。
「SFマガジン」1993年4月号掲載。
中篇で,「ラッキー・ストライク」という素晴らしい作品(日本への原爆投下にかかわる歴史改変もの)が訳されていますので,またの機会に。
