オールモスト・ホーム~テリー・ビッスン④

 トロイと友達のバグ,そして従姉のチュトの三人は,町外れの古い競走場に集まった。

 トロイは,ここに旧式の飛行機のようなものを発見していました。

 囲いの広告フェンスを翼に,フード・アーケードを胴体に,アーケードの天井扇風機がプロペラに,そして,古ぼけた真空管ラジオが操縦台に。

 この三人は,この奇妙な飛行機に乗り込み,競走場を旋回し,町を抜け,砂漠を超え,彼方へと飛行します。

 どこまで行くんだと不安になったとき,再び前方に,彼らの町が見えてきます。
 やあ,うまい具合に,元に戻れたと喜びますが,少し町の様子が異なっています。

 バグの死んだはずの双子の兄弟が存在し,ここでは,チュトの背中はそれほど曲がってはいず,自転車にさえ乗れるのです。


 子どもたちの秘密の冒険を切なく描いたファンタシーであります。

 大筋としては,よくあるパターンなのでしょうが,飛行機となるものの着想の妙と,ややお涙頂戴気味とはいえチュトの健気で儚げな姿,バグと双子のありうべき兄弟トラヴィスのほのぼのとしたユーモアで肉付けし,それを全編に漂うノスタルジックでセンチメンタルな雰囲気でくるんでいます。

 この何ともいえない,じんわりとしたもの哀しさは,ビッスンさんの持ち味でありましょう。感情に過度に溺れることを避けて,さらっと抑える。しかし,読者に深い余韻を与える。うまいものだと思いますね。

 ところで,ビッスンさんは,この飛行機をどのように思いついたのでありましょう。トロイのように,田舎の朽ちかけた廃競争場の観覧席に座っていたんでしょうか。

 作品解説によると,この作品は,死の床についていた,ビッスンさんの従姉のために書かれたものであるそうです。

 トロイとバグは,チュトがどこに行ったのかを知っています。

 ビッスンさんも,従姉が,この世界とは少しだけ違うが,別の新たな人生を経験できる世界へと旅立っていったはずという思いを込めて,この作品を書いたのでしょう。

 少し,しんみりとした話ですが,ビッスンさんのお話のうまさには,私は,ころりと参ってしまいますね。

 「SFマガジン」2006年4月号(創刊600号記念号)掲載。

 こちらでは、「ちょっとだけちがう故郷」とのタイトルになっています。