エイン博士の最後の飛行~ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア①

 エイン博士は,白血病ウィルスを変異させ,恐るべき致死性のウィルスを作り出しました。

 極めて感染力が高く,媒介生物としてはすべての恒温動物が可,免疫機構そのものを利用するので予防は事実上不可能。

 下等哺乳類では回復率は90%近いが,ヒトなど高等霊長類で22日以上生き延びた例はありません。

 博士は,飛行機に乗って,世界の各都市を回り,ウィルスを撒き散らします。そして,渡り鳥にエサをやります。

 なんで,博士は,こんな所業に出たのでしょうか。

 美しい地球を苛み,痛めつける人類に対する絶望なのか。
 彼らから地球を守るための殉教者になったのか。
 それとも,地球が,博士を導いたのか。

 この作品は,ティプトリーの7番めの短編で,ネビュラ賞の最終候補にまで残った,初期の注目作品です。

 技巧的で,いつものとおり,素直な作品じゃないので,最初は,博士の「連れの女」とは誰なんだろうと思ったくらいです。

 わかりにくいけれど,こんなに破滅的な物語が,こんなに冷徹に,不思議な諦観をもって描かれていることが,なんとも忘れがたく心に刻まれています。

 地球にとって,人類は,もはやただの厄介者に過ぎないのかも。

 ところで,別に,作品の先見性をヨイショする意図は全くないのですが,人為的に作り出しただの,生物兵器だの,免疫機構それ自体を利用するだの,渡り鳥が拡散するだの,最近,世界の脅威となっているもろもろと,妙に符合することが多いと思いませんか。その意味で,なんとも不気味な感じがします。

 蛇足
 ちょっと前にはやった「12モンキーズ」って,この作品のパクりだと,伊藤典夫氏が言っておられました。
 私は,残念ながら,この映画を見ていないのですが,何かそんな筋だったような気も。