アトムの子ら~ウィリアム・H・シラス①

 控えめで大人しく,何か周囲に対して神経質な様子を見せている少年ティモシー。

 彼は,両親を早くに失い,厳格な祖父母のもとで育てられてきた「よい子」だが,何か隠していることがあるのではないかという,担任の先生の勘により,ウェルズ医師のもとへ診断に寄こされたというわけです。

 ウェルズ先生は,ティモシーと接触を続けるうちに,彼が非凡な才能の持ち主であり,そのことによる世間との摩擦を防ぐために,“並”の子供と同じ様を装うという処世を行ってきたことがわかりはじめます。

 ティモシーとの信頼関係が深まるにつれて,ウェルズ医師は,少年が非凡どころか,まるで,“異種”の人類であるかのごとくの能力を有していることを知ることになります。


 いわゆる「ミュータント」ものの代表作の一つであります。この短編を冒頭にした長編の方が有名かもしれません。

 場面のほとんどが,少年とウェルズ医師との会話体で進んでいきます。

 警戒心をあらわにしていた少年が次第にウェルズ医師に心を開いていくさまは微笑ましい。しかし,少年の驚異的な能力が明らかになるにつれ,ウェルズ医師の思いは少し変わっていきます。

 少年の能力を理解できなかった周囲の人間たちとは違うという優越感にも似たウェルズ医師の気持ち。

 それが,少年の能力との対比が明らかになるにつれ,ウェルズ医師自身も少年の目から見れば,レベルの低い“旧人類”にすぎないということが否応なしにわかってきます。

 少年のこれまでの孤独から、仲間がいるかもしれないという喜びまで、丹念にたどる細やかな筆致は大変好感の持てるものです。

 でも,甘い物語ではありません。ラストもさらりとしながら,“旧人類”側としては,受け入れがたいような価値観の変動の予感が提示されています。