私は,デスクに向かって,褐色ペリカンの状況についての報告書を読んでいた…と,その時,国務長官がとびこんできて,
「大統領閣下!」
と眼を剥きながら,
「エイリアンが来ましたッ」
このエイリアンは,自らを“ヌープ”と称し,すでに1954年にアイゼンハワー大統領と会見したといいます。
アイゼンハワー大統領は,パニックを避けるため,しばしの猶予を依頼したようですが,ヌープが去ると,問題は棚上げ。今回,ヌープは,民衆の心構えもできている頃合いだと,大挙して来ている模様。
ヌープは,礼儀正しい,立派な宇宙人。
彼らは,我々の問題をすべて解決しよう,と申し出る。しかも,そのお返しは求めない。
ヌープは,確固たる明確な見解をもっています。
アレクサンドル・デュマが最高の作家。
淡青色が一番美しい色。
人類最高の曲は,『ベン・ハー』の音楽!…
愛すべきヌープたちは,聡明ないい連中なんだけれど,お節介を断固として押しつけてくるのです。
それも,彼ら独自の基準で。
ヌープが地球にやってきて一年後,恒星間飛行という贈物をもらった地球人はどうしたでしょうか。
そして,いかにして,地球から,飢餓が消え,貧困が消え,差別や偏見がなくなっていったのか。
ちょっととぼけたユーモアに,そこはかとない苦味がブレンドされた,大変愉快な作品です。
大作とか問題作とかいうもんじゃあないですけれどね。
馬鹿馬鹿しいけれども,世界の問題がこんなふうに片付くなら,それはそれで,なかなか結構なことじゃないですか。
でも,こんなことは起こりっこありません。
問題をいっかな解決できずに苦しむ我々の現実を見ると,この作品のユーモラスな結末が極めて皮肉に思えてきます。
本作は,腹部腫瘍に苦しんでいたエフィンジャーが,何とか回復し,10年のブランクから再起したころの作品だそうです。
死地を脱した人の,肩の力の抜けた飄々さが漂っているのは,そのせいでしょうか。有名な「シュレディンガーの子猫」とは,全く違った雰囲気ですね。
このあと,エフィンジャーは,あの「重力が衰えるとき」ブーダイーン・シリーズなどの作品を輩出するが,腹部腫瘍は完治せず,2002年に55歳の若さで惜しくも逝去。
SFマガジン「1985年4月号」掲載。
