古典的な顔立ちに、つぶらな青い瞳をはめこんだ合成の美丈夫。
これが稀少な多用途アンドロイドで,時価5万7千ドルもするってことだ。
持ち主のヴァンデルアーはわめく。
「いったいどうしちまったんだ?なんであの子を殺したんだ?」
アンドロイドには,本来,器物損壊と人傷行為はしないようにと刷り込みがされているはずなのですが,彼のアンドロイドは,なにゆえか,暴走をはじめてしまうのです。
そんなアンドロイドなど,処分してしまえばいいじゃないか。
自分で働けばいいのに。
「なにをして働く?特技なんかありゃしないんだ。専門のアンドロイドやロボットと競争できるもんか。一芸に秀でてない人間に勝ち目はないんだ」
なりは大人のぐうたら息子が,狂気のアンドロイドと逃避行を続けるうちに,段々と,その狂気に侵されていってしまうお話です。
独特の疾走感と,洒落たユーモア・センスで,一気に読ませる快作です。
劇画的感覚といってよいのかな。
ヴァンデルアーは,アンドロイドに頼りすぎて身の破滅を招いたばかりでなく,その狂気に乗っ取られ,それをまた,新たなアンドロイドに投影していくという,まことに厄介で危険な,そして,人間として惨めで,情けない存在へと落ちぶれていってしまいます。
作者は,事の善悪ということを主題にしていないため,ヴァンデルアーとアンドロイドは,大変簡単に殺人を重ねていきます。
今日では,クールな作品と読めようが,発表の1954年当時としては,やや過激ととらえられる向きもあったのでは。
アンドロイドの狂気の前触れに,指がくねくね動くというのは,「神経機能不全」の巧みなあらわしかただと思いますね。
アルフレッド・ベスターは,いうまでもなく、「虎よ!虎よ!」と「分解された男」で有名で、この両作品については,SFファンの間では,どちらが好きかというのが定番的問いなのですが,私は,恥ずかしながら,前者しか読んでいませんので,答えられません。※2025年現在も、まだ未読ですね…。
河出書房の奇想コレクション「願い星,叶い星」及び
創元SF文庫「影が行く」に収録。


